【部員日誌】新3年 鈴木知隼
三月の暖かく穏やかな日の午後、栃木県石橋駅の東京方面のプラットホームに向かう階段で、私はふと2年前の同じ頃を思い出した。私の実家は栃木にあり、春休みの機会に帰省したのだが、ちょうど2年前の同じ頃に、大学入学に伴う諸手続きを済ませるために東大の駒場キャンパスに行ったのだった。何度か東京に行ったことはあったが、多分東京という都市を直に感じたのはそれが初めてだったと思う。ビル群、工事現場、雑踏―――渋谷駅に降り立ったあのえも言えない高揚感は今でも覚えている。これが都会かとしみじみと実感した。「都市の空気は人を自由にする」という言葉が、春の匂いと相まって真に感じられた。井の頭線への乗り換えには不自由を感じたが。

私は音楽が好きなのだが、あの頃はノイズキャンセリング機能のない安い無線イヤホンしか持っていなかったから、電車内で音楽を聞こうと思ったら音量を上げなければならず、長時間は聴いてられなかった。今ではエアポッツを持っているから移動中でも思う存分音楽が聞ける。イヤホンをつける。ちょうど、電車が来た。この時間帯は空いているから席は選び放題だ。角の席に座る。ちょっと迷った後、フリッパーズギターの「Groove tube」を再生する。2年前のこの頃に出会い、今も聴き続けている曲だ。そこで私はふと、大学に入学した頃から私は変わったのだろうかと疑問に思う。大学で学んだことは数多くあるが、それが私の根本に近いところを変化させたかと聞かれると多分そうではない。心は18から変わらず、知識だけが身についただけなんじゃないか、そんな気がしている。2年前と同じ曲を今でも変わらず聞いているのがその証拠じゃないか。そこまで考えて、私は、いやそうではない、と思う。大学に入学してから多くの経験をした。部活、バイト、旅行、飲み会・・・それにいろんな人と知り合った。全てに意味はないかもしれないけど、自分では気づけないだけで、自分は変化していっているはずだ。
フリッパーズギターにはまってから2年、ビーチボーイズ、プライマルスクリーム、ストーンローゼズ、マイブラッディバレンタインといった、彼らが参照した音楽を遡ってきた。そして今、もう一度フリッパーズギターを聴いている。元に戻っているだけに見えるかもしれないけど、曲を聴く視点がまた変わってくる。2年前には気づかなかったことに気づいたりする。多分人間の成長もこれに似ていて、同じところをぐるぐる回っているだけのように見えても、螺旋階段のように上に進んでいるんじゃないか。きっとそうだ。そう結論づけたところで自分でも満足し、考えるのをやめる。

気づいたらもうすぐ上野に着くころだった。渋谷駅とはまた違う雰囲気が上野駅にはある。東大では3年でキャンパスが駒場から本郷へ変わる。私もそれに合わせて池尻大橋から西日暮里に引っ越した。多分これから渋谷に行くことは減るだろう。2年前、東京を体験したあの街に。私は変わっていく、と思った。
ドアが開く。春の風が吹いてくる。

新入生へ:ハンド部に入ってください。
春の目標:二部昇格

